No.71 2013年8月21日発行 | 日本ナレッジ・マネジメント学会

メールマガジン

No.71 2013年8月21日発行

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   日本ナレッジ・マネジメント学会メールマガジン 
   第71号  2013/8/21
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 編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局

□ 目 次
◆知の創造研究部会主催パネル討論会の概要報告
◆知の創造研究部会主催パネル討論会の写真集
◆『ナレッジ・マネジメント研究年報』第13号の投稿募集について
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◆知の創造研究部会主催パネル討論会の概要報告
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事・知の創造研究部会長 植木英雄)

 知の創造研究部会(第24回)は、これまでのイノベーション・知創造研究の
成果を踏まえて、4名の専門家によるパネル討論会を8月3日エーザイの会議室
で行ないました。

 日本発グローバル・イノベーションをいかに推進していくのかという課題は、
今日重要性を増しており、その課題解決が急務になっております。そこで、グ
ローバル企業コマツの顧問をされている日置政克氏、世界20万人のコンサルス
タッフを有すデロイトトーマツコンサルティング社パートナーの萩倉亘氏、シ
ニアマネジャーの藤井剛氏、エーザイ理事・知創部長の高山千弘氏に下記の論
題で発表をして頂き、パネル討論会を行いました。

 パネル討論会では、「イノベーション人材・リーダーの育成と組織変革のあ
り方」を統一テーマにして、パネラーが其々の視点から発表した後で、次の3つ
の共通論点について討論しました。

?イノベーション人材と組織をどう創るか?イノベーション・ウェイの人と環
境づくりの仕組み(経営理念、多様性のマネジメント、組織の変革、人材育成等)
?どのようなリーダーがイノベーションを率いていくか?
?オープンイノベーションによる価値協創の課題と挑戦:社会課題解決型イノ
ベーション・新事業創出の活性化

 猛暑の中、30名の参加者を得て、パネラーの発表と討論に引き続き全員によ
る質疑・討論も行い、実践的な課題解決策と今後のあり方について、叡知を創
発することが出来ました。

 当日の活発な知の交流と創造の様子を本メルマガ読者に伝えるために、以下
でパネラーの発表要旨と参加者の感想・コメントを掲載します。

 なお、討論会終了後に懇親会も行ない、参加者間の交流を楽しみました。
また、今回当部会では3名の新会員を迎えることができて、33名の個人会員と
法人会員3社になりました。

【以下、パネラーの発表要旨と会員の感想・コメント集】

★【論題1】 日置政克 氏 株式会社コマツ 顧問(前常務役員)による、
「コマツのウェイマネジメントとグローバル人材育成」の発表要旨

 コマツは、売上の約85パーセントを海外が占め、日本流のモノ作りが海外で
も成功している企業との評価いただいています。

 ただし、今は「日本流」ではなく、「コマツ流」です。私は、その中で人事
屋としてモノ作りのグローバリゼーションに携わってきましたが、海外だから
特に苦労をしたことはありません。日本では、グローバリゼーションを特別な
何かと考えているように見えますが、「強みを持って海外へ」ですから、もっ
と自然体で自信を持って行けるはずです。

 日本のモノ作りの技術・技能の力、品質を作り込むヒトの力、これらは日本、
海外を問わず展開できるものです。そして、グローバリゼーションを支えてい
るのは、一握りのリーダーではなく、社員一人ひとりの努力の総和、つまりグ
ローバルチームワークです。そのベースを形成するのは、情報が全員でシェア
されて、機会が均等だということです。私は、これがフォーマルの場面だけで
なく、アフターファイブでも大事だと思っています。みんな一緒という中から
信頼が生まれ、ベストなチームワークが作られるのです。

 コマツは、80年代に本格的に海外生産を進めたときから、経営の現地化を
標榜してきました。その国の企業と認められるためにも、社員とのコミュニケ
ーションや地域との関係を考えても、トップは現地のヒトであるべきと、自分
の経験からも信じていますが、現地のトップを支える日本人スタッフとの組み
合わせで機能するのだと思います。トップマネジメントもチームワークの妙な
のです。

 その世界で働く社員同士で共有すべきものとして、2006年にコマツウェイを
作りました。コマツが築きあげてきた強みを、これからも脈々と伝えるという
ものですから、長く「暗黙知」として存在していたものを文書化したものです。
書いてよかったとつくづく思います。ブックレットになって海外の社員にも伝
えることができました。コマツウェイは、理念やビジョンというより、コマツ
の価値観、心構え、行動基準として、社員一人ひとりの実践を促すものです。
コマツウェイには、全社員共通編に加えて、トップマネジメント編があります
が、これをグループのトップ全員が有言実行していること、これが定着した最
大の理由だと思っています。

 こうしたアプローチを通じて、働く社員がコマツを「働きたい会社」、「居
甲斐(居る甲斐)のある会社」と認めてくれることが、グローバルチームワーク
で働くことの基本だと思います。

 この研究会のテーマであるイノベーションは、個人の着想があってスタート
します。それを皆で支援し、出口を準備することで成果となって現れます。し
かし、そもそものアイディアのレベルで安心して提案できるかどうかは、会社
の雰囲気、空気が大きく影響しているのではないでしょうか。最近「言える化」
という言葉を聞きましたが、私が人事屋として、社員にとって「居甲斐のある
会社」にしたいと尽力してきたことは、社員がのびのびと自分の考え、アイデ
ィアを言えることと表裏であったと思います。以上。

★【大島栄作 会員 (アールシーエス研究所代表)による日置氏発表
に関する感想・コメント】

1. はじめに
 ウェイマネジメントやグローバル人材育成という言葉は、日本の企業にとっ
ては何となく違和感を感じさせる。しかし、日置さんの発表、パネルディスカ
ッションを通じて、それらはコマツらしさを軸にした自然体の取組であると感
じた。以下に特に印象に残ったキーワードについて紹介する。

2.印象に残るキーワード
(1)日本に軸足を置く
 経営のグローバル化の段階を迎えると標準化(無国籍化)がグローバル化と
なる企業が見受けられるが、コマツは日本に軸足を置くことを基本としている。
そのことがコマツらしさの原点となり環境変化に柔軟に対応するためのイノベ
ーションや人材育成の取組みが着実に実践されていると感じた。
   
(2)海外各拠点のトップに現地人を据える
 グローバル化を目指す多くの企業が最も悩むことであるが、コマツでは各拠
点のトップは現地人に任せ、それを日本人スタッフが支えるというバランス経
営を基本として実践している。ただし、心臓部となるエンジンなどは日本で製
作し海外に輸出することにより、モノ作りのノウハウは依然として日本が保持
している。これこそが強さの核心と思われる。

(3)コマツウェイは「金科玉条」として押しつけるものではない。
 其々の地域の社員が議論し、知恵を出し合って改善していくことも許容して
いる。ウェイの浸透を図るために「見える化」も実践されている。グローバル
化を目指す企業がウェイの浸透を図るのに苦慮しているが、コマツの現地拠点
では特別目新しいことではないという雰囲気で取組んでいる。

(4)日本人は「ブリッジ人材」として日本と世界を繋ぐ
 「当社には、世の中で言われるグローバル人材はいない」が、それに該当す
るものが「ブリッジ人材」だという。前提として確固とした専門領域を持ち、
それを相手に伝えようとする意欲のあることが必要とされる。現地の人たちと
一緒にやれるかどうかが大切で、たとえ言葉が通じなくても一緒に会議をする
など、一緒にやる場をできるだけ多くつくることが大事である。現地人トップ
を支援するサーバントリーダーの役割を果たすことが求められている。

(5)グローバル人材育成
 グローバル化が進展している世界の中で多様な人々とともに心地良く仕事を
し、活躍できる人材を育成するために、「傾聴力」、「共感力」を磨くことが
実践されている。そのことが「居甲斐」のある「働き続けたい会社」の雰囲気
を作り出していると感じた。

3.最後に
筆者は1970?80年代にIT企業で海外ビジネスを担当し、海外各国拠点の立ち
上げサポートの経験があり、本発表から大変多くの共感を覚えた。
特に、「普段着のグローバリゼーション:特に難しく考えない」という言葉が
強く印象に残った。以上。

★【荒木聖史 会員 ( NEC通信システム 技術管理本部 主任)による
日置氏発表に関する感想・コメント】

 日置氏のお話を聞いていて最も印象に残った言葉は「中で育てる」というも
のでした。

 最近は技術も人も、中で調達できなければ外から持ってきて間に合わせよう
とする企業も多いように感じています。そして、外から連れてきた人も技術も
使いきれずに結局、放出してしまう、そのような企業も多いように思います。

 使いこなせないということは、結局、どういうことなのか?外から連れてき
た人が話す言葉一つとっても、中の人とは異なっています。それはつまり文化
のバックグラウンドの違いということになるのですが、文化の違いをすり合わ
せるというのには、多大な労力と相互理解が必要となります。

 経営者は、中だけで解決できない問題があるからこそ外に人材を求めた訳で
すが、外から来た人の言うことを中にいた人達は素直に受け入れてくれるでし
ょうか?

 否、改革をしようとして外から連れてきた人材も経営者がきちんとバックア
ップしてあげなければ、社内で孤立して結局力を活かせないまま、もともとの
課題も解決できないまま去らざるを得なくなります。

 多様性が新たな知を生み出すために有効な手段であることは疑う余地もあり
ませんが、感情的な部分での配慮がなければむしろ対立を生む原因になること
もあります。

 その点において、コマツでは対立を排除するためにあえて、中の人間を育て
るという従来型の日本企業のやり方を踏襲しています。多様性はグローバル化
によって確保できるという判断なのでしょう。

 そして、海外も含めた従業員の間で共有されるのは理念やビジョンよりも
「行動規準」だということでした。5つの行動基準の中でも「決してリスクの
処理を先送りにしないこと」、「常に後継者育成を考えること」の二つは、ナ
レッジの創造と継承に大きなインパクトを与えているように思いました。

 リスク解決を先送りにしないことによって新たな方法を見つけることが優先
され、イノベーションに繋がります。また、常に後継者育成を考えることによ
って知の継承が行われることになります。コマツの行動基準は「知の創造」と
「知の継承」生み出すことを促し誰もが納得できるものです。この行動基準が
コマツの世界での活躍の背景にあることを感じました。以上。

★【論題2】デロイトトーマツコンサルティング社パートナーの萩倉 亘氏、
シニアマネジャーの藤井 剛氏による「日本発グローバル・イノベーション
の創出戦略と実践?社会課題解決型イノベーション・新事業創出の組織変革と
成功事例?」の発表要旨

 企業におけるイノベーションとは、革新的かつ大規模な事業を如何に創出す
るかが鍵である。本日はその実現に向けたアジェンダの立てかた、そのアジェ
ンダを事業として磨き上げる力および再現性を高めるためのメカニズム化につ
いて、実際のコンサルティング現場から導出された要諦を紹介する。

1.日本企業のイノベーションの感度は世界とギャップがある
 この20年を見ても日本においてイノベーションと呼べる新規事業創造は少な
いことは認識の通りであるが、今後を鑑みた弊社調査においても革新的な事業
で売上を成長させたいと考える企業も少ない事実も浮かび上がっている。また
個人のイノベーションマインドに関しても他国に比べ低い状況も見てとれる。
我々はこのような状況において大きく意識を変える視座として、これまでの延
長で考える新規事業(New to You)ではなく、世の中にとって新しい(New to
 the World)というものを創造できるかどうかだと考える。

2.革新的イノベーションの源泉として「社会課題解決」がある
 では“世の中にとって新しい“事業をどのようにしたら創造できるのであろ
うか?そのひとつの解が社会課題の解決にある。これはマイケル・ポーターが
提唱するCSVと意を同じくするものである。
 事象から捉えるために、社会課題への感度を計るひとつの指標としてNGO数
を見てみる。その数はこの10年で3倍近くまで増加し、かつアジア、アフリカ
など新興国における割合は高まる一方にある。
 この状況を敏感に察知するGEやウォルマートなどの先進的企業は、解決すべ
き社会課題を掲げ、実際にその解決を事業に直結させる形で自社を成長へと導
いている。

3.真に重要なのは「社会課題解決型イノベーション」の創出力向上である
 アジェンダとして社会課題を認識できたとしてもそれを大きな事業として昇
華させるためには、企業内に立ちはだかる従前からある壁を打破しなければな
らない。その前提として我々はアジェンダセッティングから事業構想までは
“非常識になれ”と、一方、事業化および再現性をメカニズム化する段におい
ては“非常識を次の常識にしろ”と説いている。もちろんこのコンセプトを実
現する大前提として、オープンイノベーションを推進する組織・人材基盤が必
要である。近年のオープンイノベーションの取り組みとしてはP&Gに見られる
ような研究者との連携に留まらず、社会課題解決に向けたNGOとの連携や、人
材育成・ネットワーキングを意図したICVなどに取り組む欧米企業も増加して
いるという事実もある。一方でその基盤を有効に機能させるためには、推進組
織の革新と投資プロセスの革新も必須である。 “非常識”を推進するチーム
を「企業内特区」として現業から分離することや、これまでのポートフォリオ
の考え方および評価観点(指標)の刷新が無ければ、ポテンシャルの高い“種”
も実を結ぶことは無いであろう。以上。

★【小沢一郎 (専修大学教授)による論題2に関するコメント】

報告者が主張する3つのポイントに対して感想を述べることとする。

<1> 日本企業のイノベーション創出力,特に世の中にない革新的なイノベ
ーションを生み出す力は,総じて,米国等他国と比較して既に大きく劣ってし
まっている。
→ 報告者が指摘している事実は全体的には受け止めるが,その後の優れた論
点に直結する位置づけになっていないことは残念である。逆に,’80年代から
続く戦略コンサルタントの方々の常套ストーリー,「まず危機感を煽る」ファ
ーストステップかと誤解を招きかねない。報告者の方々の想いが純粋であるだ
けに危惧した次第である。

<2> 骨太なイノベーションの源泉は「世界の社会課題解決」にある;
欧米グローバル企業は社会課題解決をテコにした市場創造・席捲のための“し
たたか”な戦略を既に実行中。
→ 「世界の社会課題解決」にイノベーションの源泉があることに関しては,
私も同じ考えをもっており,大いに賛同する。また,先進的な日本企業もこの
観点から既に取り組み始めていると認識している。ただ,報告者が主張する実
行ステップとして,先に「自社に有利な環境/ルール作りを仕掛ける」とし,
その後に「オープンに外部を巻き込み事業をリーンに立ち上げる」と設定して
いるところに関しては,やや違和感を禁じ得ない。「社会課題解決」の旗印を
掲げながら,自社に有利なルール作りを先行させることを日本企業が善しとす
るであろうか。むしろ,ヤマト運輸が実行してみせたように,率先して新規事
業を立ち上げ,競合他社の参入を受け入れて市場を拡大し,その中で優位を目
指すことこそが,まさに社会課題解決を優先する「骨太の実行プロセス」であ
ろうと考える。

<3> 「社会課題解決型イノベーション」の推進が,日本企業の組織変革と
次世代イノベーティブ人材育成によるイノベーション創出力の抜本改善に向け
ての,有効な施策の1つとなる可能性。
→ 報告者の指摘の中で,社内常識にとらわれない「企業内特区」が有効,特
にイノベーションが生まれる可能性が高い拠点に特区を配置することも有効,
としている点は事例も含めて興味深かった。

 以上,コメントとして書く都合上,多少辛口な部分もあるが,酷暑の中で我
々の為に発表をしで下さった報告者の方々に敬意を表すと共に御礼を申し上げ
たい。以上。

★【荒木 聖史会員( NEC通信システム 技術管理本部 主任)による論題2
に関する感想・コメント】

 お二人のご発表を聞いて、多岐にわたり様々な気付きがありました。
例えば、社会問題解決領域でのNGOとの連携の話です。

 私たち企業人は、理念として社会への貢献を掲げながらも、日々の業務の中
では目先の利益や売上についつい目が行ってしまいがちです。そしてこのこと
が、「お客様の考え」と「私たちの思うお客さまの考え」を乖離させてしまっ
ています。

 CSR(Corporate Social Responsibility)という言葉があります。これ
は企業が単独で社会貢献をしていこうという考え方だと思います。しかし、企
業が単独で出来ることには限界があります。そこで、NGOなどに金銭的援助
をして、…というのもそれぞれの思いの違いから、なかなか永続的な事業には
繋がり難いものとなっています。

 そこで最近注目を浴びているのが、ICV(International Cooperate
olunteering)、日本語で言えば留職というものです。これは、企業の社員が
新興国に一定期間入り込み、本業のスキルを活かして働きながら、現地社会の
課題を解決するというものです。

 現地の会社で働き、地域の社会や人々と時間と場所を共有することによって、
様々な気付き、別の視点を獲得することができます。特に柔軟性のある若い中
堅社員にとってはこの経験は非常に大きなものです。そしてまた、現地の企業
にとっても別の国の文化や価値観に触れ、また技術を受け入れるとができます。

 現地のNGOや企業はその事業を行っているので、短期の支援とは違い長く
効果を生み出すことができます。そして何よりも、こうして出来た人と人の関
係・ネットワークは、ICVのプロジェクトが終了しても失われることはあり
ません。グローバル化とは英語を話すことではありません。こういう国境を越
えたネットワークの蓄積こそがグローバル化の成果だと言えると私は思ってい
ます。

 社内での経験だけでなく、海外のNGOや企業に留職させることによって人
材を育成する、企業が多様性を模索する結果として、様々な手段による人材の
育成が実施されるようになって来た、とのことでした。

 そして他にも、気づきがありました。例えば、今後の世界市場を捉えたとき
イスラム教徒が増えていくということです。

 日本では宗教は習慣の中にあって、あまり意識することはありませんが、一
歩日本を出ると宗教が人々の価値観や生活を縛っているところも少なくありま
せん。先進国の中でも移民を受け入れている国では、イスラム教徒の人口に占
める割合は増えてきています。例えば、ドイツでは5%、フランスでは6%の人が
イスラム教徒であるとされています。

 モノを売り込むために相手を理解するということだけではなく、現地の人々
と誤解に基づいた文化摩擦を起こさないことが重要です。そういう意味では、
私たち日本人は宗教についてあまりにも無知であり無関心です。

 世界を相手に商売をするのであれば、相手の文化や宗教についての理解がな
ければコミュニケーションは成り立ちません。

 今後、10年から20年後イスラム教徒が増加する社会での商売を考えなければ
ならないのです。今まで常識であったことが大きく変わっていく時代だと言う
ことができます。こういう変化に柔軟に対応することができる企業が生き残っ
ていけるということなのですね。以上。

★【論題3】高山千弘氏 エーザイ理事「KMリーダーの人材育成―-SECIを
利用したイノベーションプロセス」を聞いて   
【進 博夫 会員(アルシノーバ代表)によるコメント】

 エーザイは高山氏率いる知創部を中心に、野中知識創造理論の中核、SECIモ
デルを全社展開し、発展させているKMのリーディング・カンパニーです。20年
近い歴史を持つ野中理論そしてSECIモデルは、エーザイという人間中心の格好
の実践の場を得て着実に進化し、適用の場を拡げ深めています。

 さて、今回の発表の前段は、エーザイの直近の国際的事業活動の紹介でした。
2012年1月の「顧みられない熱帯病撲滅・抑制」を目指すロンドン宣言に、ゲ
イツ財団のビル・ゲイツやWHO事務局長と並び、世界大手製薬13社の1社として、
内藤社長は従来から取り組んでいるリンパ管フィラリアへの取り組みを掲げて
参加されており、その概要が紹介されました。高山氏も今年の5月に患者さん
達の生活に関わって「共同化」を行う研修をフィリピンで実践してきたそうで
す。エーザイの掲げるhhc活動の最先端現場です。

 私見ですが、エーザイは共通善を志向してhhc活動を行っている点で、競
争戦略の文脈に発して語られてきたマイケル・ポーター教授のCSV理論とは趣
を異にするようです。エーザイにはぜひ頑張って頂きたいと思います。

 さて、そのような企業としての実践活動を背景に、発表の主テーマは、年初
から高山氏が主ファシリテータとして学会での活動を開始した、KMリーダーの
人材育成を目的とする「組織変革実践研究プロジェクト」の中間状況説明で、
初公開の内容でした。中小企業を中心に、事業分野の異なる6社の経営幹部に
実践メンバーとして参加して頂き、年間7回のプロジェクトの場を予定。毎回
理論・原理などを議論しワークショップ等で理解を深め、自組織に当てはめた
実践課題を形成し持ち帰って変革実践を行い、結果・経過を報告し合うという
サイクルを繰り返します。こうして新たな視点での変革テーマを個々に設定し、
組織変革のための解決策を実践していくことになります。現在までに4回を終
了し、今後さらに3回の場を通じて各企業組織での現場知に基づく組織変革風
土づくりを支援し、終了後は今回のプログラム内容を確定した後、モデル事例
企業を増やすべく第2クールメンバーの募集に入る予定です。

 日経ビジネス8月5日号掲載、M.ゴールドスミス氏と野中名誉教授の対談は高
山氏が企画したそうですが、その記事中の「組織的知識創造プロセスのSECIモ
デル」の図は、本プロジェクトでの組織的SECI実践のモデルに相応しいと言え
ましょう。

 今回の発表へのオーディエンスの反応は非常にポジティブなものでした。そ
の中で、この変革プロセスで難しい点は、との質問への高山氏の答えは、共同
化から表出化の部分であり、SECIを日常業務に適用することが望ましいそうで
す。また連結化では、同じ考え方のパートナーでないと難しい、単なる契約と
は異なる、とのことでした。

 筆者は、今までにないタイプの学会活動である本プロジェクト立ち上げの世
話役として高山氏と共に活動しており、第1クール終了後は高山氏はじめ実践
メンバーの方たちによる発表会等で学会内外の方々に成果を広く知っていただ
き、第2クールおよびその後の活動の広がりに参画して頂けるよう、尽力した
いと考えています。同時に実践メンバーで学会員ではない方々や、プロジェク
トに興味を持たれた方々には私たちの仲間に加わって頂きたいと考えています。
これは学会理事会での要望事項でもあります。

 最後に、今回の本部会は、いつもにも増して示唆に富み大変刺激的なもので
した。午後の半日、異なる分野の3報告を共通のテーマで括り、出席者も30名
と適当な人数でした。スピーカーの皆さん以外にもヤクルトOBの平野氏など論
客が参加されたことも活発な議論を呼びました。

 この会合をオーガナイズされた植木部会長に敬意と感謝を表します。
以上。
                                       (編集責任:植木部会長)

◆知の創造研究部会主催パネル討論会の写真集
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事 メルマガ編集長 松本 優)

パネル討論会・懇親会の写真集は、次のURLをご参照ください。
http://www.kmsj.org/archive/20130803photo.pdf

◆『ナレッジ・マネジメント研究年報』第13号の投稿募集について
(『ナレッジ・マネジメント研究年報』 編集委員長 植木英雄)

『ナレッジ・マネジメント研究年報』第13号の投稿(論文および研究ノート)
を募集いたします。投稿規程と執筆要項(学会ホームページリンク先に掲載)
に基づき、2013年10月31日(木)までに投稿原稿とメディアを学会事務局研究
年報編集委員会宛てに送付してください。

なお、投稿を希望される方は9月30日(月)までに投稿の意思と題名を編集委
員長まで事前にメールでお知らせ願います。
(編集計画の参考にさせていただきます。)
投稿原稿は最近年の年次大会、研究部会等の発表者以外でも投稿できます。

会員の皆さんの奮っての投稿をお待ちしております。
「ナレッジ・マネジメント研究年報」投稿規定
http://www.kmsj.org/news/nenpou_kitei.pdf
「ナレッジ・マネジメント研究年報」執筆要項
http://www.kmsj.org/news/nenpou_youkou.pdf

連絡先:研究年報編集委員長 植木英雄 E-Mail: h-21ueki@tku.ac.jp
送付先:日本ナレッジ・マネジメント学会事務局 研究年報編集委員会 宛
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町3-1-10田中ビル4階

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<編集後記>
残暑お見舞い&ゲリラ豪雨災害のお見舞い申し上げます。
今回は8月3日に行われた「真夏の討論会」の特集号みたいになりましたが、
熱い内容満載です。いかがでしたか、お役にたちましたでしょうか。
まだまだ暑さ厳しい毎日が続きそうです、皆様も熱中症には十分注意を
なさって下さい。
メルマガの内容についてのご意見、ご感想及びメールアドレスの変更などは
以下のアドレスにお願いします。           (編集長 松本 優)

学会アドレス:kms@gc4.so-net.ne.jp
編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局(森田 隆夫)
問合先 日本ナレッジ・マネジメント学会事務局
TEL:03-3270-0020 E-Mail:kms@gc4.so-net.ne.jp