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日本ナレッジ・マネジメント学会メールマガジン
第80号 2014/4/30
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編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局
□ 目 次
◆日本ナレッジ・マネジメント学会の理事長を務めるにあたって
◆第17回年次大会の詳細報告について
◆基調講演、特別講演のまとめ:
◆基調講演「ソーシャル・デジタル時代のCoca-Cola Way of Marketing」
◆特別講演「M2M革命と今後の経営」
◆「日本ナレッジ・マネジメント学会第17回年次大会の詳細報告」
◆『ナレッジ・マネジメント研究』第14号の投稿募集について
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◆日本ナレッジ・マネジメント学会の理事長を務めるにあたって
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事長 花堂 靖仁)
夜8時に庭火や高張提灯などの灯かりが消され、伊勢神宮の内宮の森は「浄
闇(ジョウアン)」の静謐に包まれた。浅沓で玉砂利を鳴らしながら、200人
に及ぶ遷御の列が一糸乱れることなく新しい御正殿へと進む。「雨儀廊(ウ
ギロウ)」と「道敷(ミチシキ)」が設けられてはいるが、前照ではなく、
足元を照らすだけの行列先頭の二つの松明に導かれ、渡御行列は粛々と進む。
20年に1度宮地を改め、社殿や御装束神宝をはじめとする全てのものを新たに
して、神宮の大神に新殿へお座りいただく神宮最大の厳儀である。
62回を重ね1300年にわたり繰り返されてきた式年遷宮は、日本の社会の在り
方を伝承し、確認する働きをもたらしている。ナレッジ・マネジメントへの示
唆を、そこに見出すことはできないであろうか。
昨年10月2日に行われ、8年にわたり積み上げられてきた式年遷宮の仕上げ
となる遷御の儀には、社殿に用いるご用材の準備や御装束神宝の調製に携わっ
た職人や神職のみならずその関係者および各界の代表3000人の参列が許され、
遷御の儀の場を共有する。誰しもが、知識としては、渡御行列の核心に御移り
になる「八咫鏡」があることを知っているが、それは僅かな灯かりに揺れ動く
「絹垣(ケンガイ)」に囲われており、直視はできない。事後には、高感度カ
メラでの撮影が許された報道陣の映像で再現されるようになったが、現場では、
文字通り心眼をもって視た心象を刻み込むことしか許されない。
参列を許された一人としての心象を簡潔に記させていただきたい。「次の20
年の日本の、また世界の進む方向が、まさしく暗中模索の状態にある現代社会
にあって、いかなる事態に遭遇しても、我々がどのように歩を進めていたらよ
いのかを暗示しているようだ。松明は、先を示すのではなく、『道を外れるな』
とのサインに他ならないのではないのか。外してはいけない「道」は「絹垣」
の内にあると確信していても、囲われている内を見ることはできない。それだ
けではなく、鏡は力の権化ではあるが、それ自体は何も語ることなく、それと
対峙する者の心を鋭く映し出すものである。つまりは、『道』が何かの答えは、
一人ひとりが自問自答することからしか得られない。まずは、3000人がそれぞ
れに刻み込んだ心象を、背後に連なる人々に語り、自問自答するに輪を拡げる。
それと共に、見通せない将来について、共有できるものが何かを求め、思いを
相互に確認しながら、常に歩みを進める「和」の世界へ繋げることが期待され
ているのではないのだろうか。」
伊勢神宮については、さらに理解を深めなければならないことがある。例え
ば、内宮と外宮という二つのご正殿があり、神様が召上る御饌(ミケ)は外宮
で調理し、食材は神宮の御杣山に発し伊勢湾に注ぐ凡そ16キロの五十鈴川を軸
にする自然循環系において産み出される地のもので賄われることとどのように
関係するのか。
あるいは、20年間神に捧げられてきた御装束神宝が撤下されると、かつては
土に埋められ、あるたり焼却されてきたという。しかし、延喜式の古儀に定め
られてきた御装束神宝の伝承が、明治以降の西欧化のなかで承継しにくくなる
なか、保存されるようになり、後に続く調整者が先達の作品から学び取れるよ
うにした。やがて当代の名工として選ばれた調整者が美術的技巧にこだわり、
ともすると原型を失う惧それがでてきたところから、大正年間になり古儀調査
会が設置され、延喜式の時代に即した仕様書と設計図が改めて整備され、昭和
4年からこれに準拠するようになった。そのなかにあって、絶滅した日本古来
の鶴斑毛(ツルブチゲ)という黒白の斑の毛並みをもつ馬を模した御彫馬(オ
ンエリウマ)については側面図しか準備されなかったのは何故なのか等、ナレ
ッジ・マネジメントの観点から興味深いことが少なくない。
改めるまでもなく、当学会の名称は「日本ナレッジ・マネジメント学会
(KMSJ)」となっている。片仮名書きとなっているところから察せられるよう
に、西欧、特にアメリカから渡来したものに他ならない。1980年代に入り、PC
が普及し、特にアメリカの義務教育段階で広く活用されるようになるにつれ、
文字と印刷機に支えられその発展につれ整えられてきた伝統的な知識の共有と
伝承の体系に代わり得るものが出現した。これが、Knowledge Managementの出
現の契機となった。紙と文字に代わる、プログラミング言語とITメディアの
時代が到来したと多くの人が思った。Data-Information-Knowledge-Wisdomモ
デルのKMの出現である。
しかし、時を同じくして野中郁次郎先生は、日本的知識創造経営の調査研究
を進められており、その集大成が『知識創造の経営-日本企業のエピステモロ
ジー』(1990年、日本経済新聞社刊)として著わされ、暗黙知と形式知の連鎖
が鍵であることを示された。その5年後、野中先生は竹内弘高教授と共に“The
Knowledge Creating Company”(1995,Oxford University Press)を出版され、
Socialization-Externalization-Combination-Internalization,すなわち
SECIモデルを提唱された。
当学会は、この二つのモデルを軸に会員がそれぞれにKMのあり方を求めて
きたと認識しているが、これらモデルの関係を正面切って整理することに挑ん
でこなかった。この間、ITを巡る状況は大きく変貌してきているように思え
る。特に、大量データを超短時間に処理することが可能になったクラウド・コ
ンピューティング時代になった結果、自己の言動を左右する情報を膨大なデー
タの中から見つけ出すのかが問われており、それを可能にするデータ・サイエ
ンティストなる専門家を生み出すに至っている。まさに、この二つのモデルが
どのような関係に置かれるのかを整理し、KMSJとしてのKMの定義を明らかに
するべきときではないかと考える次第である。
この取り組みをはじめるに当たり、思い出すことは、当学会の会長で前理事
長の森田松太郎先生にお供することで2007年9月にドイツでの知的資本サミッ
トおよび南仏ニースでのTKF2007に参加させていただいたことである。ご存
知のように、森田先生は定期的に人工透析を受けなければならないにお体にも
かかわらず、許される限り国際会議に積極的に参加され、KMSJの役割と取り組
みを説明されるとともに、KMSJの「KMとは」を問われ続けられてきたと心得て
いる。
この度、創立者である森田先生のお気持ちを汲み、会員の皆様の信任を得て、
KMSJの理事長を務めさせていただくことになりました。理事、顧問の方々のご
協力を得つつ、会員の皆様とともに日本のKMのあり方を求めつつその成果を
内外に発信してまいりたいと存じております。
◆第17回年次大会の詳細報告について
(日本ナレッジ・マネジメント学会事務局)
前号第79号で去る3月8日の当学会第17回年次大会の実施報告をしましたが、
その時お約束したもっと詳しい内容の報告書をまとめましたのでご報告します。
本紙では写真が貼れないテキストメールであるため午前の基調講演・特別講
演のまとめと講演要旨のみを掲載します。別途写真付きの全体の詳細報告はURL
リンクでホームページの方に掲載しますのでぜひご覧ください。
◆基調講演、特別講演のまとめ:
(第17回年次大会プログラム委員長 本学会理事 植木英雄)
第17回年次大会は、3月8日(土)横浜国立大学で開催され、「経営者の知―
ネットサービス型産業化への転換―」をテーマに、午前中は、基調講演と特別
講演が行なわれた。
基調講演では、日本コカ・コーラ(株)副社長の鈴木祥子氏が「ソーシャル
・デジタル時代のCoca-Cola Way of Marketing」と題して、同社の2020年ビジ
ョン「長期成長戦略」についてスライドや随時VTR映像も交えて具体的に講演
された。同社のスマホを軸とした展開、パッション、自分ごと化などに力点を
置くソーシャル・エンゲージメント・センターの活動などグローバル企業のベ
ストプラクティスから得られた知見は、日本企業にとって近未来の経営実践の
道標となろう。
続いて(株)インテリジェント ウェイブ会長の安達一彦氏より「M2M革
命と今後の経営」と題して特別講演が行なわれた。本大会では新しい企画とし
て講演内容に講演者と討論者が質疑を交えて課題を議論し、大会テーマを深堀
するため安達会長と山崎秀夫 専務理事との間で活発な討論対論が展開された。
時代の先端をいくM2M産業革命の時代における今後の経営のあり方につい
て気付きと示唆が得られた。
基調講演と特別講演の概要については、お二人から寄稿された以下の講演要
旨を参照されたい。(全講演録については、学会誌『ナレッジ・マネジメント
研究』第14号に掲載予定。)
◆基調講演「ソーシャル・デジタル時代のCoca-Cola Way of Marketing」
日本コカ・コーラ(株) マーケティング本部IMC副社長 鈴木 祥子 氏
【講演要旨】
ザ・コカ・コーラ・カンパニーは、「世界中にさわやかさをお届けすること」
「前向きでハッピーな気持ちを味わえるひとときをもたらすこと」「価値を生
み出し前向きな変化をもたらすこと」をミッションとして、世界200カ国以上
で展開を行っている。世界200カ国以上にまで展開してきた背景には、それぞ
れの国で地元の企業と組んだ地域密着企業を目指してきたからである。日本で
も、原液の供給と製品の企画開発や広告などのマーケティング活動を行う日本
コカ・コーラ株式会社と、製品の製造・販売を行うボトラー社や関連会社など
で構成されている。
100年以上も前に誕生したコカ・コーラは、今後100年においてもポップカル
チャーのグローバルアイコンでありたいと考えている。そのために、コカ・コ
ーラとして大切にしていくアイデンティティやデザインはグローバル共通のも
のとし、消費者との接し方は時代時代の最先端かつ、展開する国の消費者のパ
ッションポイントに沿ったものとしている。長期成長戦略「2020 Vision」に
おいて、これから何十年にもわたり企業として成長していくためには、先を見
据え、世界の動向を把握し、自身の未来像を思い描き、変化に応じて速やかに
行動しなくてはならないと掲げている。
そのような考え方に基づいて、マーケティング手法、及び社内ナレッジ・マ
ネジメント手法は、ソーシャル・デジタル時代を前提としたものになっている。
日本コカ・コーラ社内のナレッジ・マネジメントは、消費者コミュニケーシ
ョンの手法と似ている。それは、頭の中で合理的に理解いただくことだけでは
なく、人々の心に訴え、エモーショナルに自分ごと化できるような仕掛け、仲
間と共に分かち合う体験を提供することで記憶に残るような仕掛けを考えてい
る。消費者がタイムリーにどんなことを考えているかを把握し、リアルタイム
エンゲ?ジメントを行うために、2013年にはソーシャル・エンゲージメント・
センターを設立した。このセンターでは、コカ・コーラ社の主要ブランドにつ
いて、毎日、過去24時間にどのようなことを語っているのか量的質的に分析を
し、デイリーレポートに取りまとめ、全マーケターにシェアされている。今日、
全世界で毎日19億杯のコカ・コーラ製品が愛飲されている。マーケティングの
基本は教科書から学ぶのではなく、毎日19億杯愛飲いただいている消費者から
学ぶことをソーシャル・エンゲージメント・センターを通じて体現したいと考
えている。
(以上)
◆特別講演「M2M革命と今後の経営」
(株)インテリジェント ウェイブ会長 安達 一彦 氏
【講演要旨】
M2M(Machine to Machine)は、別名モノのインターネット(Internet of things)
と呼ばれる。従来のインターネットは“人のインターネット”であり、モバイ
ル端末の普及により、100億近くのIP接続が予定されている。
しかし、“モノのインターネット”では、これが10兆近くに拡大すると考え
られている。ここで言うモノとは、センサー、ロボット、コンピュータの事を
指している。
最近のセンサーは、人間の五感を大幅に超えた能力を持っている。例えば視
覚で見ても、人間が見る事のできる可視光線の領域は極めて小さい。我々は、
放射線、X線、紫外線、赤外線、電波は見る事ができない。しかし、センサー
を使えば認識できる。センサーはそれ以外にも、多種な物理量、化学物質、細
菌に至るまで認識できる。このセンサーが、インターネットに繋がる事によっ
て、あらゆる物理的データがリアルタイムでかつ、全地球規模で認識されるよ
うになる。又、ロボットが繋がれば、地球規模で活動する事が可能になる。
また、近年、経営手法も変化しつつある。特に“経営のダッシュボード”と
か“マーケティングのダッシュボード”といったERPやCRMで促えた経営
や顧客情報をリアルタイムで“見える化”するといった事が始まっており、そ
れの根拠となるデータは、精度とスピードが要求されている。
“人のインターネット”の現在でも、SNSやWEB等の普及で、情報のスピ
?ド化や正確性が増しているが、“モノのインターネット”の時代になれば、
その精度とスピードは、数十倍・数百倍にも改善しこれを経営に使わない企業
は、組織の大小に関わりなく脱落への道をまっしぐらとなる事は自明である。
特に今後大きく変化する領域としては、行政、エネルギー、物流、医療、農業
があげられる。正に大革命前夜といった状況であり、これらの対応が総ての企
業、団体、公共機関に急がれなければならない。
現在日本での成功事例をあげるとすれば、コマツのKOMTRAXがあげら
れる。これは、コマツの販売したブルドーザ等の位置、移動スピード、稼働率、
エンジンの状況等をリアルタイムで把握できるもので、ただコマツのみならず、
ユ?ザの会社に於いても、貴重な経営データである。KOMTRAXの活用は
大幅な経営革新となる。
今後の課題としては、小さくて、エネルギーを使わないような新しいセンサ
ーの開発、従来の機器のスマート化、新しい数学によるビックデータの解析技
術、現在のスーパーコンピュータとは異なるアーキテクチャーを持つ量子コン
ピュータの実用化等があげられる。(以上)
●この後に、進 博夫氏の基調講演、特別講演を聞いての感想が続きますが、
紙面の都合でホームページのほうに掲載しました。上記の安達氏の講演要旨に
は含まれてない、山崎専務理事と安達氏の対論バトルの様子なども報告してく
れています。20分間の壇上でのバトル、突っ込みとぼけの漫才みたいなシー
ンもあり楽しかったですよ。これを読まないと特別講演の報告は完結しません。
ぜひ期待してリンク先へどうぞ!(^.^)(編集長)
◆「日本ナレッジ・マネジメント学会第17回年次大会の詳細報告」
以下のURLに掲載しました。
写真付きで全体の流れもわかり見て楽しめるようになっています。
ぜひご覧ください。
http://www.kmsj.org/archive/20140308photo.pdf
◆『ナレッジ・マネジメント研究』第14号の投稿募集について
(『ナレッジ・マネジメント研究』 編集委員長 植木英雄)
『ナレッジ・マネジメント研究』第14号の投稿(論文および研究ノート)
を募集いたします。投稿規程と執筆要項(学会ホームページリンク先に掲載)
に基づき、2014年10月31日(金)までに投稿原稿とメディアを学会事務局研究
編集委員会宛てに送付してください。
なお、投稿を希望される方は9月30日(火)までに投稿の意思と題名を編集委
員長まで事前にメールでお知らせ願います。
(編集計画の参考にさせていただきます。)
会員の皆さんの奮っての投稿をお待ちしております。
『ナレッジ・マネジメント研究』投稿規定
http://www.kmsj.org/news/nenpou_kitei.pdf
『ナレッジ・マネジメント研究』執筆要項
http://www.kmsj.org/news/nenpou_youkou.pdf
連絡先:研究編集委員長 植木英雄 E-Mail: h-21ueki@tku.ac.jp
送付先:日本ナレッジ・マネジメント学会事務局 編集委員会 宛
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町3-1-10田中ビル4階
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<編集後記>
メルマガの内容についてのご意見、ご感想及びメールアドレスの変更などは
以下のアドレスにお願いします。 (編集長 松本 優)
学会アドレス:kms@gc4.so-net.ne.jp
編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局(森田 隆夫)
問合先 日本ナレッジ・マネジメント学会事務局
TEL:03-3270-0020 E-Mail:kms@gc4.so-net.ne.jp