No.16 2008年9月8日発行

   
 日本ナレッジ・マネジメント学会メールマガジン 第16号

☆☆☆★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆☆★★☆☆★
 日本ナレッジ・マネジメント学会メールマガジン
 第16号   2008/9/8
☆☆☆★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆☆★★☆☆★

編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局

□ 目次
[学会からのお知らせ]

◆The Knowledge Forum 2008の会員向け参加費について
(広報部会 事務局)

◆ベンチマーキング部会 第3回BM活動報告書
(ベンチマーキング部会 事務局担当)

◆組織認識論研究部会 第3回研究会開催のご案内
(日本ナレッジ・マネジメント学会 事務局)

◆「第3回ニューテクノロジーセミナー」開催のご案内
(日本ナレッジ・マネジメント学会 事務局)

[転載記事]
◆メルマガ「クリエイジ」第208号 2008年月日より

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◆The Knowledge Forum 2008の会員向け参加費について
(広報部 事務局)

 かねてからお伝えしているとおり、今回のThe Knowledge Forumは、
今年11月16日(日)-17日(月)に東京商工会議所で開催いたします。
 これまで入場チケットの代金を25,000円とご案内しておりましたが、
より多くの会員の皆様にご参加いただけますよう、大幅に値下げをし
会員向け価格を10,000円とさせていただきます。これは既に参加表明
をしていただいた方にも適用されます。更に1日目の昼食を立食形式
で無料にて提供いたします。

 学会ではThe Knowledge Forum 2008 に合わせて、ナレッジ・マネ
ジメント書籍を発刊いたします。かんき出版(株)様にご協力いただき
鋭意出版準備中です。ご参加の会員には当日に1冊お渡しします。

参加を希望される方は、
1.学会事務局へEメールにてお申し込み下さい。
  その際、入場チケットの送付希望先を明記してください。
2.受付確認の返信メールをいたしますので、以下銀行口座へ
  入場チケットの代金をお振り込み下さい。
  ご入金の確認ができ次第、チケットを送付させていただきます。

みずほ銀行日本橋支店 普通預金
口座番号 8056924
口座人名 日本ナレッジ・マネジメント学会 理事長 森田松太郎

当日のプログラムは、TKF2008 公式サイトに掲載しています。
以下URLをご参照下さい。

URL:http://tkf2008.jpn.org/

・The Knowledge Forum 2008お申し込み先
日本ナレッジ・マネジメント学会事務局
E-Mail:kms@gc4.so-net.ne.jp

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◆ベンチマーキング部会 第3回BM活動報告書
(ベンチマーキング部会 事務局担当)

訪問先:富士フイルム先進研究所
報告者:ベンチマーキング部会 佐々木吾朗、松本 優、岩岡保彦、
    進 博夫
日時: 2008年7月24日 14:00 – 17:30
訪問先: 富士フイルム先進研究所 神奈川県足柄上郡開成町牛島577
応対頂いた方々: R&D統括本部事務部 担当課長 藤村律義さん、
    池田正人さんのお二方他受付の方等事務部の皆さん
訪問者: BM部会員を主体に17名
概要(流れ):
・野村部会長の挨拶
・藤村担当課長及び池田さんのプレゼンテーション
・質疑応答(意見交換会)
・2班に分かれて研究所内部の見学
・補足の質疑応答

 ベンチマーキング部会の第3回目の企業訪問では、神奈川県足柄
上郡開成町にある富士フイルム先進研究所を訪問し、違う分野の研
究者同士が対話を進めながら新たな価値を生み出すためにはどうい
った仕掛けが必要なのか、働き方を変えていくにはどういった工夫
をすれば良いのかといったことについて、R&D統括本部事務部担
当課長の藤村律義さん、池田正人さんにお話しをお聞きしました。

 以下に写真も交え詳しくレポートいたします。

 今回のレポートは先発(ストッパーの大魔神ではなく先発完投型
エース)佐々木吾朗のメインの報告、2番手(カメラマン兼の遊び
球の多い技巧派)松本 優の写真レポート、3番手は(前回先発の)
岩岡保彦、4番手クローザーは前回に引き続き進 博夫の2人の感想
のラインナップでお届けします。

なお、最後は野村部会長のベンチマーキングの視点(3)で締めています。

●前回同様4名の部員と部会長の違った視点からのレポートや感想、
写真により、総合すると臨場感あふれる長編力作になっていますの
で、はじめから以下のURLへ飛んでじっくりとご覧ください。

URL
http://www.kmsj.org/home/archive/20080724.pdf

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◆組織認識論研究部会 第3回研究会開催のご案内
(日本ナレッジ・マネジメント学会 事務局)

 9月21日に今年第3回目の組織認識論研究部会を開催いたします。
ふるってご参加ください。

2008年第3回研究会プログラム

日時:9月21日(日曜日) 13時30分-17時00分
場所:神戸大学 経営学部の中会議室

タイムスケジュール(プログラム)

・13:30-14:15(発表30分)
大森信(日本大学)
「企業におけるトイレ掃除活動を通じた新入社員教育(仮)」

・14:15-15:00(発表30分)
稲葉祐之(大阪市立大学)
「江戸期大阪の都市ビジネス:なぜ大阪は『天下の台所』になったのか」

・15:00-15:15 休憩

・15:15-16:00(発表30分)
松田潤・金森努
「ナレッジマネジメントシステム導入から見えてきた企業における
組織行動管理の手順」

・16:00-16:45(発表30分)
川村稲造
「「日常の理論」における「言語化」のプロセスについて
(仮題)-「トップとミドル」「実務と経営学」の間をつなぐもの」

連絡先・事務局
大阪学院大学企業情報学部 喜田昌樹
E-Mail:keen39■u01.gate01.com
(送信の際は■を@に差し替えてください)

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◆「第3回ニューテクノロジーセミナー」開催のご案内
(日本ナレッジ・マネジメント学会事務局)

 来る9月18日、「第3回ニューテクノロジーセミナー」ならびに
「第4回 月例カンファレンス」を開催いたします。

 今回も7月同様、前半はValues研究委員会による「第3回ニューテ
クノロジーセミナー」を、後半はeLC「月例カンファレンス」を開
催するという形で実施いたします。

皆様のご参加をお待ち申し上げております。
       
■日時:2008年9月18日(木) 14:00-17:00
■会場:東京八重洲ホール 901号室 http://www.yaesuhall.co.jp/
 住所:東京都中央区日本橋3丁目4番13号 新第一ビル
 TEL:03-3201-3631 FAX:03-3274-5111
 交通:JR東京駅八重洲中央口より徒歩約3分
    地下鉄銀座線日本橋駅・京橋駅より徒歩約5分
    東西線日本橋駅より徒歩約5分

◆第1部:「第3回ニューテクノロジーセミナー」(14:00-16:00)

 日本イーラーニングコンソシアムValues研究委員会では、日本
ナレッジ・マネジメント学会と共同で、eラーニングに関連する
ニューテクノロジーの話題を皆様にお届けし、eラーニング関連知識、
ICT関連知識の強化に 役立てていただくため、ニューテクノロジー
の連続セミナーを行っています。
今回のセミナーでは、PodCast、SNSの2つのテーマを取り上げます。

■セミナー内容:
◆テーマ1【PodCastとeラーニング】14:00-15:00
タイトル:「オープンコンテンツ・ソーシャルラーニング」
       ポッドキャストがつくる自由な学習環境
講師:キャスタリア株式会社 代表取締役 山脇 智志 氏

内容:ネットでの動画や音声は、もはや当たり前のものとなりました。
大学が講義内容をネットで提供する世界的なプロジェクト「オープン
コースウェア」や、米国における講義のポッドキャスト配信など、IT
メディアと教育が結びつき、教育も新たな時代になろうとしています。
ネット上に多くの教育コンテンツがあふれる現在、それらを使ってネ
ットユーザーは  自由で革新的な新たな「ネット学習」をすでに開
始しており、米国の大学や企業などもその動きに追随しています。
今後さらに増大するネット上の教育コンテンツをどのように活かすの
か?そしてその学習の仕方とはどうなっていくのか?
トレンドとして見え始めた「無料で自由に使える動画/音声コンテン
ツ、そしてそれをみんなで学ぶ」というスタイルは確実にウェブの利
用法として認知されはじめています。
一例としてオンラインで利用できるコンテンツに「学習機能」を付加
できるツールfusen、そのコンセプトと活用例のご紹介を通して、既
にお持ちの動画/音声コンテンツを簡単に「学習コンテンツ」化する
ノウハウをご紹介いたします。

参考URL:http://castalia.jp/news/fusen.php

◆テーマ2【SNSとeラーニング】15:00-16:00
タイトル:「無料で使えるオープンソース、OpenPNEで実現する教育用SNS」
講師:株式会社手嶋屋 代表取締役 手嶋 守 氏

内容:無料で使え自由に拡張出来るSNS『OpenPNE』は、株式会社手
嶋屋が、2005年より開発しているオープンソースのエンジンです。
現在、エンターテインメント業界をはじめとして、企業、官公庁、
NPO等30,000以上の組織で利用されています。
最近では、企業内の研修や専門学校、大学など、各教育機関で、本
格的な導入が始まっています。本セミナーでは、英語教育SNSでは
著名な『iKnow!』や、英語教材を扱うアルク出版が運営する『アル
コムワールド』などの教育関連SNSの事例を紹介。また、『OpenPNE』
を利用した教育系SNSを分析しながら、『eラーニング』とSNSの接
点を模索していきます。

参考URL:http://www.openpne.jp/

◆第2部:2008年度第4回「月例カンファレンス」(16:00-17:00)

1)特別セミナー
タイトル:アメリカの大学が教えるラーニング&テクノロジー
スピーカー:日本イーラーニングコンソシアム広報委員会委員 佐々木 大

概要:講師の佐々木氏は、eLCの一般向けメールマガジン【eLCメー
ルニュース】で、1年間にわたり「米国eラーニング便り -只今ス
タンフォード大にて奮闘中!-」を連載執筆され、この8月に米国
スタンフォード大学教育大学院のLearning, Design &Technology
プログラム(修士課程)を修了、先日帰国されました。
今回は佐々木氏に、スタンフォード大学での1年間の学びを振り返り
つつ、アメリカの大学が教えるラーニング&テクノロジーについて
お話しいただきます。

2)報告事項
※今回の「月例カンファレンス」は、eLC非会員の方でもオブザーバ
参加が可能です。
■定員:40名
■参加費:eLC会員、日本ナレッジ・マネジメント学会会員は無料 
■申込方法:日本ナレッジ・マネジメント学会事務局までご連絡ください。
E-Mail:kms@gc4.so-net.ne.jp TEL:03-3270-0020      
■申込締切:2008年9月17日(水) ※先着順とさせていただきます。

以上

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◆メルマガ「クリエイジ」第214号 2008年9月1日より

目次
1.ビジネス書「大切にしたい会社」書評
2.感銘を受けた本
[編集後記]

1.ビジネス書「大切にしたい会社」書評 山田陽一

○「日本でいちばん大切にしたい会社」
  坂本光司著 2008年3月 あさ出版 価格:1,470円(税込)
  http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4860632486

 企業の社会的責任ということが言われながらも企業の不祥事はあと
を絶たない。報道される不祥事の内容も、ここ数年は、品質の偽装、
リコール隠し、安全管理の不徹底、理不尽な雇用問題など、企業内部
の日常の業務から発生する問題が多い。

 しかも問題が発覚すると、原因を従業員、取引先などに平然と押し
付ける経営者が多いのには落胆させられる。こんな社会的責任観の
ない経営者のもとで、日本の産業社会は健全な発展を続けられるのか
不安を感じる人も多いと思うが、本著はそのような疑念を払拭させて
くれるだけの希望を与えてくれる。

 本著で言う「日本でいちばん大切にしたい会社」とは、世界に冠たる
大企業やハイテク企業、高株価企業のことをいうのではなく、社員と
顧客の満足度が高く、結果として長期にわたって(または長期的に)
好業績を維持する中小企業、社会的公器としての責任や使命を果たす
ことに真剣に取り組んでいる価値ある中小企業のことである。

 企業の社会的責任論に関しては概して観念的な著書や論文が多い
が、本著は中小企業研究に情熱を燃やす著者が6千社を超える会社
を訪問し、経営者や従業員との直接会話をもとにしているだけに、
取り上げた事例は説得力があり感動的でもある。

 本著では、会社経営とは「5人に対する使命と責任を果たすための
活動」であり、「業績ではなく継続をめざすべき」としている。「5人に
対する使命と責任を果たすための活動」とは、第1が社員とその家族
を幸せにする、第2が外注先、下請企業社員を幸せにする、第3が
顧客を幸せにする、第4が地域社会を幸せにする、そして第5番目が
株主と出資者を幸せにすることだという。

 自社や外注先の社員の満足感が高くなければ顧客を満足させら
れる仕事は出来ないし、第1から第4の使命と責任を果たせなくては、
株主を満足させるだけの経営成果を上げることは出来ない。目先の
業績や株価にとらわれてこの順番を見失うから経営に失敗するという。

 このような視点から、本著では選びだした中小企業の経営への取り
組みを紹介することに多くのページを割いている。障害者の働く意欲
を真正面から受止め、社員の7割を障害者で構成する会社、社員の
幸せのための経営を貫き、成熟業界にありながらも48年間増収増益
を続ける食品会社、超辺鄙な立地にありながらも世の中に役に立つ
仕事をしたいと願う若者が日本中から志願し、世界中に顧客を持つ
会社など、どの事例も生き生きとして描かれ、感動させられる。

 具体的な会社名や経営者の考え方などについては本著を一読いた
だくことに譲るが、事例を読むにつれてあらためてこれからの日本に
おいて大切にしなくてはならない経営の本質を考えさせられる。いわ
ゆる経営書かもしれないが、企業人以外にも一般の消費者、学生など
万人にお奨めできる本である。

○「千年、働いてきました?老舗企業大国ニッポン」
  角川oneテーマ21 C 123 野村進著 2006年11月 角川書店
  価格:740円(税込)
  http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4047100765

 本著の副題は「老舗企業大国ニッポン」。というのは、「何百年単位
での歴史を有し今もって活動を続ける企業が、日本のように多く存在
している国はヨーロッパにもアジアにも存在しない、ニッポンは間違い
なく世界に冠たる老舗大国である」というのが本著の基本認識だから
である。ちなみに世界最古の会社とみられるのは大阪にある「金剛組」
という建築会社で、宮大工として仕事を初めた飛鳥時代の西暦593年
から数えると、創業1400年以上ということになるそうだ。

 ただし本著の狙いは、古い会社を紹介することが目的ではなく、潰れ
ない会社の持続力の源を探ることにある。つまり、ただ古いということに
価値があるのではなく、例えば江戸時代の金箔や鋳物の技術が今日
ではケータイ(携帯電話)の技術に活かされているように、基本となる
技術や精神は一貫して保持しつつ、時代の変化に応じていかに柔軟に
姿を変えてきたかということを詳細に検証している。

 したがって、一般に老舗というと和菓子をつくって何百年、旅館一筋
に数百年という事例があげられることが多いが、本書で扱う老舗企業
とは製造業(ものづくり)である。この点、あきらかに従来の"老舗もの"
とは一線を画している。

 日本において老舗製造業が多く存在することが可能であった社会的
要因として、本著では異文化に支配強制される植民地主義の波をかぶら
なかったこと、職人を尊ぶ風土をあげているが、この点、少なくともアジア
において日本は稀有な存在といえよう。

 さて本著では、老舗の技術が現代の電子機器、電子部品、バイオ
テクノロジー、環境などさまざまな分野に活かされている事例をとり
あげている。例えば、上記のケータイに活かされた老舗企業の知恵の
ひとつは次のようなものである。コンパクトに折り曲げる部分に使われ
ている「銅箔」、この技術の源は職人が金の粒を狸の毛皮にはさみ槌
で丁寧にたたいて延ばしていく金箔であり、この折り曲げ部分の銅箔
製造は今や世界シェアの9割を占めている。その他、ケータイに関連
する分野だけみても貴金属の極細線、人工水晶など多岐にわたる。
なぜ伝統の技術を現代の最先端の分野にまでに進化させ得たのか、
銅箔製造の社長が語る「身の程をわきまえ、コアミッションからはなれ
ないこと」という言葉には含蓄を感じる。

 その他、さまざまな事例が紹介されているが、最後に老舗製造業の
共通項を5つにまとめている。第1が同族経営は多いが血族には固執
せず、よそから優れた人材を取り込むことを躊躇しないこと。第2が
老舗とは停滞した「静」のイメージではなく、柔軟性と即応性に富んだ
「動」の組織であること、ある老舗企業の社長が語った「伝統は革新
の連続」という言葉は印象的である。第3が時代に即応した製品を出し
つつも、創業以来の家業の部分は守り抜くこと、企業が存続するため
には大きい倫理と理念が必要である。第4が「分」をわきまえた経営を
行うこと、儲かるからといって投機など本道から外れてはいけない。
第5が町人の正義、つまり売り手と買い手が公正と信頼を取引の基盤
に据えること、である。これら老舗製造業から得られる教訓は、目先の
利益に翻弄されがちな今日の企業経営にとって価値ある指針になるで
あろう。企業文化論として読んでも面白い一冊である。

2.感銘を受けた本 山田陽一

○「理性の奪還?もうひとつの「不都合な真実」」アル・ゴア著
  竹林 卓訳 2008年2月 ランダムハウス講談社 価格:1,890円(税込)
  http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4270003030

 副題は「もうひとつの「不都合な真実」」。著者は米国クリントン政権
時代の副大統領であり、2007年には環境保全活動の主導的役割により
ノーベル平和賞を受賞、またクリントン政権時代の初期には情報ハイ
ウェイ構想を打ち出し、米国のインターネット網整備の政策を進めたあの
ゴア氏である。

 本著は、環境破壊による地球の危機を訴えてベストセラーとなった
「不都合な真実」に続く警告の書であり、今日の米国社会は理性を失った
状態にあり、民主主義が危機に瀕していると訴える。著者の危機感は、
今日、米国が重要な決断をする場面で、理性や論理や真実の役割が
急激に縮小してしまった、理性の力への信頼は民主主義の大前提で
あるにもかかわらず、公の議論は的確さを失い、理性から遠ざかって
いるということにある。

 そして「この危機はなんらかの思想が引き起こしているのではなく、
思想が成立する環境そのものの変化が原因であり、テレビメディア
の及ぼす影響が大きい。今日、米国人は1日平均4時間35分テレビ
を視聴(世界平均より90分多い)しており、依然として情報流通は
テレビに支配されている。そしてテレビへの過度の依存が公の議論
から理性を奪っている」と指摘する。

 著者が科学的根拠にもとづいて指摘するには、「テレビメディアは
一方向の、与えられる情報であり、瞬時に"恐怖心"を国民の脳裏に
焼き付ける。米国民の約半数はいまだに同時多発テロへのサダム・
フセインの関与を信じており、ブッシュ政権は政治プロセスを操作
するためにテレビの恐怖心の刷込み効果を使っている」として、社会
とメディアのあるべき姿に紙面を割いて論じている。著者は、「恐怖心
は理性にとって最大の敵である」という。理性が恐怖心を払いのける
こともあるが、恐怖心が理性を遮断してしまうこともある。現在の米国
は後者の状況にあるという。

 インターネットについては、個人が意見や主張を広く発信できる現在
の状況は歓迎すべきであるとしながらも、まだ十分にテレビメディア
以上の役割を果たすにいたっていないと述べる。それどころか権力
による個人攻撃が横行し始め、テロの恐怖を大義名分として、理不尽
な捜査や盗聴、プライバシーの侵害など、米国憲法の精神が侵害
されつつある状況に対して深刻な警告を発している。

 本著を読み進めるうちに、テレビメディアによる情報支配が国民全体
の思想の成立プロセスに影響を及ぼしつつある現実は、日本において
も同様ではないかと感じた。日本人のテレビ好きは米国人に負けず
劣らず(日本人の平均TV視聴時間はNHK生活時間調査によると休日
で4時間14分)であり、ニュースや知識の源泉としてテレビ番組よって
受ける影響は大きい。日本においても理性をもって決断すべき政治
課題や社会問題は多く、本著の内容は、日本社会にとっても警告と
受止める必要があろう。

○「人の痛みを感じる国家」
  柳田邦男著 2007年4月 新潮社 価格:1,470円(税込)
  http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4103223170

 日本社会では人の痛みを感じない精神構造、乾き切った人間関係が
ますます蔓延している、今こそ心の問題を真正面から見直し、人の痛み
を感じる国家を創るべき、という警世の書である。

 本著がまず指摘する問題は、ネット社会における匿名性や過度の個人
情報保護によって引き起こされた匿名社会における心の荒廃である。
匿名は人格を透明化し、無責任に他者を中傷・誹謗する人々を増加させ
ている。特に子供の頃から匿名に慣れてしまうと、大人になって歪んだ
人格構造が固定してしまう恐ろしさを認識すべきであると訴える。

 さらに指摘するのは、ゲームや映像に汚染されていく子供たちの問題
である。これに関連して異常な事件を起こした少年少女をつぶさに診て
きた精神科医の岡田尊司氏の科学的指摘を紹介し、子供たちにクリス
マスにゲームソフトを贈るのは、LSDやマリファナを贈るに等しいか、
それ以上に危険なことと警告する。

 小中学校にパソコン教育の導入を決めたのは森内閣時代だが、
「なぜパソコン教育が必要なのか、情報モラル教育の重要性について
の国民的議論もそこそこに、景気回復を優先して導入が決まって
しまった」と批判し、明日の日本を背負う子供たちに心のゆがみを
もたらすゲーム中毒やネット中毒から守ることが喫緊の課題であり、
そのためには小中学校のパソコン学習を廃止すべきと訴える。

 本著がさらに指摘するのは、他人の痛みに全く鈍感な行政官や企業人
の存在である。「他者の痛みは何年でも耐えられるものです」というある
医師の反省の言葉を紹介し、典型的な例として、行政や企業の怠慢から
引き起こされたにもかかわらず延々と続いた薬害訴訟、公害訴訟をとり
あげる。これらは最近相次いで原告側の勝訴となったが、これらの判決
は歪んだ行政のあり方の転換を求めるものと受けとめる必要があり、
官僚の意識改革を強く訴える。

 本著が出版されてからそれほど時間がたっていないにもかかわらず、
まさに人の痛みを感じないことに起因する事象は絶え間なく起き続けて
いる。先ごろ秋葉原で起きた通り魔大量殺人、葛飾で起きた想像を
絶する残虐なOL殺害、さらにこれらの事件を煽るかのようなネットへの
無責任な書込みの横行、あるいは高齢者医療や年金問題をめぐる
行政と国民との如何ともし難い深い溝、多発する企業不祥事と経営者
の無責任な発言や従業員との対立などである。

 これらの事象が起こる本質を考えると、本著が指摘する問題に符合
することが少なくない。こころ豊かに生活できる社会を望まない国民は
いないはずであり、どうしたら人の痛みを感じる国家を創ることができる
のか、理性をもって国民的議論が必要な時代にあることを痛切に感じ
させる著作である。
———————————————————–
山田陽一(やまだ よういち)略歴
 1944年東京生れ。1966年3月慶應義塾大学工学部を卒業、同年4月
株式会社野村総合研究所に入社、在職中は主に経営コンサルタントと
して活動し、流通企業の経営革新、繊維メーカーの新規事業開発、
韓国財閥企業の経営革新、素材商社の業務革新および株式公開を
目指す中堅・ベンチャー企業の経営提言など、多分野にわたるコンサル
ティング業務に従事。また、96年にはオーナー経営者等とニュービジネス
研究所を設立、エンジェル税制の導入、規制緩和などニュービジネス
育成のための政策提言活動を推進。2003年3月に野村総合研究所を
退職、同年4月に名古屋工業大学大学院産業戦略工学専攻の教授に
就任、経営管理を専門分野として社会人、一般学生を対象とする技術
経営教育(MOT)を実施した。2007年3月に定年退職、退職後は電子
部品商社の顧問、大学発ベンチャー企業の役員に就任し、現在に至る。
———————————————————–
[編集後記]
 山田陽一氏には第27号、第126号に続いて3回目のメルマガ執筆を
お願いした。勤める会社が自分にとって、日本でいちばん大切にしたい
会社、であることには違いないが、顧客や取引先、さらには地域社会
からも「大切にしたい会社」と認められるようになりたいものだ。
———————————————————–
今日のコラム「年金申請」
 先週、年金裁定請求書を藤沢社会保険事務所に、退職共済年金決定
請求書をさいたま市の日本郵政共済組合に提出してきた。また1か月
ほど前に年金加入期間確認通知書を九段合同庁舎の国家公務員共済
組合連合会からもらい、1か月後に港区の企業年金連合会に老年年金
裁定請求書を提出する予定である。さらに藤沢市役所から住民票と
戸籍謄本、郵便局に口座の証明印をもらった。厚生年金、共済年金、
国民年金の3つ加入していたためだが、一苦労であった。
 年金の一元化と申請主義からお知らせ主義へ変更すれば、私自身の
事務量は3分の1に、また年金業務量も3分の1となり、保険料や税金の
無駄遣いが減ろう。

「この頃や雷くせのつきし日々」高浜虚子

(推薦書籍)
年金制度は誰のものか
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4532490308
2015年の社会保障制度入門?社会的連帯の強化と自己決定の尊重
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=488990123X
年金大崩壊 完全版 講談社文庫 い 86?2
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4062759101
「消えた年金」を追って?欠陥国家、その実態を暴く
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4576071289
誰も書けなかった年金の真実?あなたがもらえなくなる日
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4344014391
老後所得保障の経済分析?年金システムの役割と課題
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4492701214
これからの年金・医療・福祉?格差があってはならない社会保障
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4502657808
厚生労働白書 平成20年版
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4324085617
世界の厚生労働 2007?2005-2006年海外情勢報告
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4924947652

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