No.2 2007年7月2日発行

   
 日本ナレッジ・マネジメント学会メールマガジン 第2号
    

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 日本ナレッジ・マネジメント学会メールマガジン
 第2号   2007/7/2
☆☆☆★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆☆★★☆☆★

編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局

□ 目次

[学会からのお知らせ]
◆e-Learning World 2007開催のご案内
(日本ナレッジ・マネジメント学会事務局)

◆新しい学会ホームページの仮設サイトについて
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事 岩岡 保彦)

[学会員からの寄稿、活動報告]
◆東海部会のご紹介
(日本ナレッジ・マネジメント学会東海部会 事務局)

[特別寄稿]
◆早稲田大学大学院公共経営研究科政策提言発表会に出席して
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事長 森田 松太郎)

◆NPO法人国際戦略シナジー学会 特別講演「兵法に学ぶ経営の道」
(アサヒビール株式会社名誉顧問 中條高徳氏)

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◆e-Learning World 2007開催のご案内
(日本ナレッジ・マネジメント学会事務局)

 先の年次総会でもご案内申し上げましたとおり、
「e-Learning World 2007」が下記概要にて開催される運びとなり、
会期中に開催の「ナレッジ・マネジメントセミナー」におきまして
当学会も特別講演に協力参加させて頂くこととなりました。
会員各位の積極的なご参加を賜りたく、ご案内申し上げます。

・名称
"e‐Learing World 2007"ーExpo & Conferenceー
第3回e-School 学校教育IT総合展

・開催テーマ
次世代人材育成戦略-Learing & Performance

・主催
「e‐Learing World 2007」実行委員会

・会期
平成19年8月1日(水)-3日(金)

・会場
東京ビッグサイト西4ホール及び会議棟
〒135-0063 東京都江東区有明3?21?1

・入場料
1,000円

・後援
経済産業省、文部科学省、総務省、厚生労働省 他

・公式サイト
http://www.elw.jp/

ナレッジ・マネジメントセミナー
「日米欧におけるナレッジ・マネジメントの最新情報」
協力:日本ナレッジ・マネジメント学会

・開催日時
8月2日(木) 13時30分より15時40分まで

・会場
東京ビッグサイト会議棟1階101号室

・特別講演プログラム
1.「日米欧のナレッジの潮流」
森田 松太郎(日本ナレッジ・マネジメント学会 理事長)

2.「成功事例に見る日本での展開
『あんしん、あったか、あかるく元気!』-人が織りなすANAブランド-」
澤谷 みち子(全日本空輸(株) CS推進室CS企画部 主席部員)

3.「リコーにおけるKM事例―企業内ブログの魁"おじさん通信"の秘密」
松本 優((株)リコーコーポレートコミュニケーションセンター
「おじさん通信」担当)

※詳細は http://www.elw.jp/keynote2.html をご覧下さい。

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◆新しい学会ホームページの再構築について
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事 岩岡 保彦)

KMメルマガ No.1 でご案内した通り、学会ホームページの再構築を
進めています。
まだまだ未完成で、今後皆様のご意見を得ながら改善してゆく必要
があります。
検討中のイメージを仮設サイトにUPしました。
URLは、http://www.kmsj.org/home/ です。
KM Report のバックナンバーを、pdfファイルで収録しています。
KM Report No21 は既に印刷して会員の皆様へ送付しておりますが、
No22 以降は学会ホームページからダウンロードして頂くことに
なります。
使い勝手、デザイン、その他何でも、お気づきの点を事務局まで
お知らせ下さい。

なお、会員が自由に書込みできる掲示板機能は、現在適用ソフトの
選定を進めています。費用の掛からない標準ソフトで試行を始めて
問題点を洗出すべく、次号メルマガ No.3 でご案内する予定です。

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◆東海支部のご紹介と部会ホームページのご案内
(日本ナレッジ・マネジメント学会東海部会事務局)

東海部会は、日本ナレッジ・マネジメント学会の東海地区支部組織
(旧第6研究部会)として発足し、講演会、研究会等を通じナレッジ
に関する情報交流や研究を推進しています。
ホームページのURLは、http://www.kmsj.org/tokai/ です。
これまでの活動記録や企業調査プロジェクトの概要を収録しています。
今年から東海部会季報(No.1 2007 Jan、No.2 2007 April)をUPし
ています。連絡先などは、ホームページをご覧下さい。

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◆早稲田大学大学院公共経営研究科政策提言発表会に出席して
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事長 森田 松太郎)

 平成19年3月25日(日)早稲田大学大熊記念大学院公共経営研究
科の修了生成果発表会に出席し、修了生の研究発表を聞く機会を持
った。
 発表した修了生は9名でうち女性は5名であった。女性のうち1名
は中国籍であった。そのうち2名は広い意味でナレッジに関する発
表であった。
 発表の趣旨を要約して紹介すると次のようであるが、ナレッジ・
マネジメントの広がりは単に企業の経営だけでなく、広く色々な場
で考えられ、実践の動きにあることを痛感させられた。
 北岡聡美さんは立川市の職員で公民館の仕事をしている。はじめ
NTTデータに就職し後に立川市に転職し地域社会の活性化の仕事
に取り組んでいる。公民館は無償で地域社会に学習の場を提供する
ことに意義がある。公民館に集まる人たちは、何か学習したいと言
う意欲を持っている人が多い。参加者同士がともに学びあいお互い
の知識を高めることに生きがいを感じる。
 それぞれの人は、それぞれに経験と知識を持っているが、交流す
る場がなければ知識の共有ができず宝の持ち腐れである。知識には
暗黙知と形式知があることはすでに野中先生たちによって証明され
ているが、企業の中の知は先生の有名なSECIによって共有知として
企業の中における重要な目に見えない財産になっている。
 地域社会の知について考えると、知の共有はいわば草の根の知の
共有で「おとなの学び」となる。地域社会には各種の経験とキャリ
アを持った人が住んでおり、その人たちの有する暗黙知をそのまま
埋没させるのは地域社会の損失になる。
 このような地域の知のつながりを仮に知縁と呼べば、地縁、血縁
に勝るとも劣らない街づくりの意識が芽生えてくる。
 知縁の広がりをサポートするのが公民館という場であると考えら
れる。場の提供が地域社会の知を発掘し、連結し新たな知の創造に
繋がるが、立川市における運動はKMに一石を投じるものである。
 目下のところ場は物理的な場であるが、ウエッブを広げると空間
に広がる場になる。コミュニティの活性化は知縁の広がりに依存す
るといっても過言でない。したがっていかに知縁を拡大し、知の共
有化と新しい知識創造が大きな課題になる。
 昔から知恵の輪と言う言葉があるが、知縁はまさに地域における
知恵の輪であり、広がり方如何では無限の可能性を秘めている。
「三人寄れば文殊の知恵」である。
 考えてみれば、社会というコミュニティは人の集まりであり、自
分の住む街を良くするには、それぞれの人の考えを持ち寄り、いわ
ば、街つくりのベストプラクティスを行うことに他ならない。その
ため例えば公民館と言う場を生かして住民が集まり、ナレッジを交
換することで新たな価値創造が行われる。
 地方行政においては、住民の希望、意見をいかに行政に反映させ
るかが大きな問題である。そのためには、住民の考えていることを
まず聞くことが大切になる。ここの住民についていちいち意見を聞
くのは大変であるから、公民館などで集約され交換された意見を聞
き、住民とナレッジを共有することが大切である。

 次に川口市から派遣されている堀伸浩氏が地域社会プラットフォ
ームによる知識創造型市民協同社会の実現―ナレッジ・マネジメン
トを活用したローカル・ガバナンスモデルの提言を発表された。
堀氏の提言は
1.市民を地域の人的資本(ヒューマン・キャピタル)と位置づける
2.コミュニティ・リーダーをソーシャル・キャピタルと位置づける
3.ナレッジ・マネジメント理論を機軸とし、組織運営や人材育成
理論を複合させる
4.Face to Faceを基盤としたリアル(現実)領域と、ICTを基盤と
したバーチャル(仮想)領域の特性を最適化すると言うことである。

 SECIの理論で、当初の市民段階のここのナレッジ(暗黙知)は表
出化され連結化されて地域知へと進化する。地域知の形成は地域ネ
ットワークへの連帯によって多様なコミュニティが創設され、新た
な価値創造へと進む。

この段階は
1.情報共有
2.提案参加
3.支援
4.評価
のシステムとなり、これらの市民活動は市民活動支援機能(コミュ
ニティ・リーダーにより構成される)によって支援される。
 地域に住む住民を人的資本と考えれば、地方の統治主体は地方自
治体でなく、地域に住む住民と地域のコミュニティ・リーダーとな
る。換言すれば、地方自治体と市民が協同して地域を経営すると考
えれば、市民と地方自治体は社会システムのなかの人的資本である
と考えられる。
 以上が発表の大略であるが、すでに三重県において北川知事の時
代にナレッジ・マネジメントが大幅に行政に取り上げられ、市民と
の知の共有と新しい知識の創造が図られた歴史がある。ナレッジ・
マネジメントは企業の面だけでなく幅広く応用される方向が模索さ
れていることを感じる。
 今まで知は企業の中における知が中心に研究されてきたが、知の
存在は企業の中よりむしろ地域社会の中に多く存在するので、その
地域知の活性化はこれからの地方行政における大きな課題になると
思われる。

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◆NPO国際戦略シナジー学会 特別講演「兵法に学ぶ経営の道」
(アサヒビール株式会社名誉顧問 中條高徳氏)1/4
4回に分けて掲載します。

【中條】皆さん、こんにちは。私は、会社でお世話になった森田先
生ではなくて、ほんとうに尊敬している森田さんからお話がありま
したからね。しかもこの学会は、お聞きしてみますと、戦略フォー
ラムと、我々軍人のなれの果てがやっているのがあるんですよ。そ
れが一緒に、もうこういう新進気鋭のほうに、私の一存で、私は幹
事だから、真剣に思ったくらいだね。
 それで、世の教えに、つまらない人間は、いくら縁にあっても、
その縁にすら気がつかない。並みの人間は、気がつくけれども、縁
を生かしきれていない。世の勝ち組、きょうの表現で言えば勝ち組
に回っている人は、そですり合う縁も生かすという、柳生家の教え
です。ですから私も、森田先生のお話があって、一生お会いするこ
とがなかったであろうあなたの縁もきょうは一緒にいただいて1時
間勉強できるのですから、大変幸せに思います。

 森田先生から課題が与えられて、あのまさに消えなんとしたアサ
ヒビールがよみがえってきたそのプロセスを、しかも私はもうハー
バード大学からだめと言われたんですよ。だめと言われたことがも
っけの幸い。ですから、私どもは、今、先生のお話があった、今か
ら61年前は、我がアサヒビールは、その名も大日本麦酒と言って、
この国のビール業界の75%のシェアを持っていたそれはそれは堂々
たる会社だったんです。61年前に戦争に負けたから、この我々の不
幸がやってきたんです。

 先生が今戦争のことをおっしゃいましたけど、戦争というのは、
簡単に言いますと、国連にきょう現在191カ国が参加しています。
それで朝から話し合いをしているの。あの6カ国協議のときでも、
皆さん情報を見たらおわかりのように、話し合いをしているんです。
この前の6カ国協議も、まあまあ話し合いがついたからおさまって
いるんです。

 話し合いというのは、話し合いがつかないことがあります。結婚
式のときに神様に永久に愛し合いますとあれだけ人様の前で誓った
のに、数秒に一組ずつ離婚しているでしょう。しかも夜のあのすて
きなことまで授かった人類がしているわけでしょう。ましてや国際
間というのは、きばをむき出した話し合いをしているわけです。で
すから、話し合いのつかないことが容易に想定されるでしょう。

 話し合いがつかないときは力で決めていいということに国際法で
なっているんです。ですから、第一次世界大戦のときに、ヴェルサ
イユ条約の中に不戦条約というのがありますけど、あれは見え見え
の侵略の行為はだめだと言っているだけの話であって、自分の国が
危ないといったときに、話し合いがつかなくて攻めていくというこ
とは堂々と認められているんです。戦争というのは、文化的に話し
合いでつかないときに力で決める作用だから、戦の勝敗は正義とは
全く関係がない。そして、クラウゼヴィッツの言うように、もう政
治の延長線である。戦争は政治の一つの変型にすぎない。話し合い
がつかないから力でやると。

 ですから、きょう、皆さん方は世のリーダーでいらっしゃるわけ
ですから、戦争は力で黒白を決める。戦争の結果である勝敗は、正
義が勝って不正義が負けるなんていう理屈は全くありません。そし
て、近代史、いやいやもっと先の戦争も、必ず勝者が急にツラまで
大きくなって、声高になって、それ見たことか、おれのほうが正し
かったじゃないかと言って、歴史すらほとんど勝者の手によってつ
づられるものなんです。そんな全く素朴だけど大事な原理原則が、
世界の一、二の債権を築いたこの日本でわかっていない。国会に参
加している人すらわかっていないというのは甚だ重大な問題だと思
うんです。西元さんあたりの活躍を期待いたします。きょうはそれ
に時間をとったら1時間の時間が食い込まれますから。

 それで、61年前に、ひょっとしたらこのアジアの黄色目が世界を
征服するかもわからないという危惧を持ったのが、この前の大東亜
戦争のほとんどの理由だと思ったらいいんです。それを勝ったんで
すから、向こうもあれだけの犠牲を払って勝ったんですから、彼ら
の考えている哲学を負けたほうの日本に当てはめようというのはし
ごく当然の論理であって、ですから彼らは上陸するやいなや、直ち
に修身、歴史、地理は教えちゃいかんと。世界に情報が伝わるのに
かかわらず、この日本をやっつけたときに、占領軍のまず唱えたの
は、日本人に修身、歴史、地理を教えちゃいかんという。それだけ
でもわかるじゃありませんか。ですから、あらゆる打った手は、想
像を絶するものがありました。

 我々の経済界にとった占領政策が即ち過度経済力集中排除法。日
本のこれはというしっかりした企業325社を選び出して、そしてす
べて常務以上を追放して、その上まだ分割したんです。ですから、
鉄は国家なりとしばしば言われますから、日鉄を八幡と富士に分解
するとか、三菱重工は戦車も軍艦も使っていましたから東、中、西
と3分割。今の皆さんでも納得すると思います。そして三井物産や
三菱商事は粉々にやられました。時には死の商人と言われるほどあ
の商社は戦争に協力する組織だからです。

 それで、その中に何と平和産業である大日本麦酒や王子製紙が大
きいがゆえに含められたんです。そして、こういう優秀企業を残し
ておいたのでは、すぐれもののジャパン、おそらくこれを種にして、
また頭をもたげてくるであろうという。そして、私どもは昭和24年
9月1日に、75のほぼ半分、36.1のシェアで、西日本を主たる地盤と
してアサヒビール。リードする者は山本為三郎。その残りのシェア
で、東を主たる地盤として、柴田社長が率いる日本麦酒、今のサッ
ポロビールと分割された。キリンビールは、シェアが25という、シ
ェアが低かったがゆえに難を免れたということです。

 そして、皆さんにまず告げたいのは、分割の破壊力の恐ろしさは、
実際なめた者でないとわからないと思います。その証拠に、この国
家も平成の大合併ってやっているじゃないですか。3,200ほど市町
村があったんです。これをアバウト半分にすれば約4兆円の税金が
助かるという試算が起きたから、一昨年の3月までにやった市町村
に対しては国家もご褒美まで出して平成の大合併をやったというの
は、つまりは市町村の組織を単位に大きくしたらこれだけ経費が浮
いてくるということです。

 それから、銀行でもそうでしょう。天下の興銀が商人銀行である
富士銀行と第一勧銀と合併するなどだれも予測できなかったじゃあ
りませんか。それは、彼らの役員たちに聞いてごらんなさい。だれ
一人喜んでしている人はありません。要するに戦い切れないんです
ね。今まで金融というのは、我々も厄介になったんですが、終戦後、
この我々が稼いだ産業の仕組みは、私は日の丸方程式と名づけてい
るんですが、負けて5年後に朝鮮動乱が起きたということは、私は
神の国と言いたい。歴史にもしはありませんが、もし朝鮮動乱が
1950年に起きなかったとしたら、果たして今のような日本はでき上
がっていたかどうか、甚だ私は疑問に思います。日本の画策でない
のに、突如として5年後起きて、あれでよみがえったんです。

 それよりももっと大きいのは、皆さん、ぜひこの勉強の場でも、
事業の場でも知ってほしいのですが、1991年まで、要するに負けて
5年の1950年から、日本をルーズベルトはヤルタ会談で、当時のソ
連と、一緒込みになって日本をやっつけたわけです。それが5年後
に破裂したわけです。自由主義陣営とワルシャワ体制。地図をごら
んになったらすぐわかります。日本列島というのは、自由主義陣営
とワルシャワ共産陣営とのちょうどはざまに浮かんでいるんです。
こういうのを専門的に地政学的優勢と言うんです。地政というのは、
「政治」を、普通皆さんが地理の時間にやるやつは「勢い」ですけ
ど、地政学的です。なぜかと言うと、すぐれた政治家が出てきて、
自分の周囲の国をコントロールして、自国を有利なところに展開す
る、だから地政学的優勢さ。吉田総理も頑張った偉い人だったけど、
何もしていませんよ。それなのに日本という国は突如として自由主
義陣営と、モスクワを中心とするワルシャワ体制の間に、地政学的
優勢なところに横たわったわけです。

 つまりは、わかりやすく言ったら、こっちも日本を引き込もうと
して、スパイやいろいろして、すさまじいまでの工作、「コミンフ
ォルム」から、そういう力学が働くから、今まで憎かった、今ご報
告したようなアメリカであったものが、5年後には突如としておれ
たちの自由主義陣営の共産圏に対する最前線のとりでの役割にこの
列島はなったわけです。この体制が崩れたのが1991年でしょう。そ
れで、これが始まったのは1950年でしょう。この間というのは、も
う事業をしている人はよく知ってほしいと思いますが、私はわかり
やすく日の丸方程式とか言っているんです。なぜかというと、自由
主義競争なんてやっていないんですよ。やっていたように錯覚して
いるんです。

 うちの例でお話してみましょう。うちは先生のご厄介になってい
たけど、我々の酒類業界は大蔵省国税庁の監督下にある。監督だか
ら、うちが限界企業ですとつぶれるときは、一番のだめ男に落ちた
ときは、国家が監督しているのだから、つぶれたら困るから声がか
かるんですよ、「おまえのところ、苦しかろう」。だから素直に
「はい」と言ったら、何と、国税庁が同じテーブルで値上げ案を練
ってくれるのです。国税庁というのは国家じゃないですか。私、3
回も値上げしましたから。ごめんなさい。国税庁と一緒になって値
上げ案をつくる。それで、その当時強くなったキリンビールも、だ
め男アサヒビールも同じ価格で、お客の皆さんも何も不思議に感じ
ていなかったじゃないの。それで、価格を調整して、これでいける
なと決まったら、おまえのところが一番苦しいんだから真っ先に行
けと言うんです。一番力のないものが真っ先に値上げするなんてい
うのは自由競争と言えますか。極めて具体的な例でしょう。それで
来ていたんです。

 ですから、業界でも差があります。例えば今のブッシュ大統領の
おやじのブッシュ大統領が、アメリカの自動車産業は命産業ですか
ら、ビッグスリーを連れてきてはアメリカの車を買えとやっていま
した。ああいうふうに自動車交渉をしているような、国際的な荒波
を受けた業界は今強いでしょう。要するに、グローバルスタンダー
ドなんて言っているけど、世界の物差しに合った――それは合って
はいませんよ。だけど、我々酒類業界に比べてみると、はるかに合
った商売をしていたから、こういう時代になっても強いのです。我
々の世界は酒団法(酒類業団体法)という法律に守られて、14万人
の酒屋さんはぬくぬく商売をやってきたわけです。ですから、それ
をわきまえない酒屋さんは今、嫌な時代が来たな、こう言っていま
すよ。私は厄介になったお酒屋さんだからあまり言えませんけど、
4割は消えていくと思うな。こういう時代なんですよ。ですから、
こういう中で生き延びた。

 ところが、今、勉強会だから許していただき、我々とたもとを分
かったサッポロビールさんは、常に2位だから非常にのんびり生活
なさっていたのです。それで、今、限界企業になっています。そう
したら、今や、M&Aだとか、敵対的なTOBだとか、サッポロの経営者
はベッドへ入ったって安んじて寝られないよ。ですから、こういう
時代にあったということをまず覚えてください。それだから、アサ
ヒビールも、これからご報告しますけど、我々が選んで、この時代
を見てとってどっぷり落ちていったわけではありません。さまざま
努力したけど、落っこちていった、その声の天の時というんです。
こういう時代でなかったら、もう消えています。

 それからもう一つ大きなのは、情報がものすごく進歩しました。
それで、情報によって1991年のソ連邦がなくなったわけです。もう
日本のあなた方の働きぶりが0.6秒でゴルバチョフに着くくらいの
情報の進歩があったから、もうあほらしいというのでペレストロイ
カを宣言した。宣言したら、このワルシャワ体制が、チェコだとか
ハンガリーとかワルシャワ体制の国々がみんな崩れていったのをあ
なた方は全員見たでしょう。ですから、情報化時代は世を変えるん
です。

 それと同時に、日本は金持ちにもなったから、若者が世界へ行っ
てみずからが情報をつかんで帰る。例えばビール一つにしてもそう
です。ミュンヘンへ行く、あるいはベルギーへ行く。ああ、デブの
おばちゃんが両腕に生ビールのジョッキを幾つも抱えている姿を見
る、その人たちがどんどん増えてきていたわけだね。そして我々戦
前の人たちは、日本というのはものすごくコンサバティブな国民で
したから、もうビールはキリンビールだと。飲む前からキリンでな
ければビールでないよと。「ドクマのさびつき」と私は名づけてい
るんですけどね。ところが、おやじがキリンビールとこだわったっ
て、若い人たちは、いやいや、おいしいものはおいしいんだと。要
するに自分の味に対しても自己主張をするような若者が増えてきた
のは、アサヒビールが教育したわけではありません。ですから、こ
ういうふうに企業にも天の時というのはやってくることがあるんで
す。我々は幸い天の時をいただいたんです。

 それだけでは勝てませんから、これからいよいよ、先生から言わ
れている、ハーバード大学からだめと言われたから絶対だめだと言
うんですよ。私の性格は、ハーバードの権威は今でも認めますよ。
認めますけど、いかにすぐれもののハーバードでも、人間のなすわ
ざのところで、絶対とは生意気千万。絶対なんていうのは神の表現
ですよ。だから、よっしゃ、それならばやってみまっせ。それから、
ちょっと乱暴ですけど、ハーバードの権威を認めているから、ハー
バードがだめだと言ったんだから、何やって失敗したってもともと
これはだめだと。しかし、皆さん、お笑いになるけど、この開き直
りの要素が必要と思います。今でも私は兵法にまさる指南書はない
と思います。

(次号へ続く)

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編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局(森田隆夫)